わかっているのになぜやめられない♪ ~「美しい国」の醜悪なダムのお話~

美しい国、日本の5月。瀧見橋より

  首都圏の水道用水は節水の効果もあり、余っています。ちなみに武蔵野市は水道水に深井戸から汲み上げた地下水を約8割使用しています。国土交通省はカスリーン台風並の降雨に備えるためにも「八ッ場ダム建設は必要」としてきましたが、同省の計算によれば同規模の台風が襲来したとしてもピーク時の水量は変わらないとしています。何のためにダム建設をするのか意味がわかりません。また建設予定地周辺は浅間山の噴火により発生した泥流が堆積していて、地すべりを起こしやすい地質で大規模崩落の可能性があります。多額の公金の投入も見逃せない問題です。このように群馬県吾妻川に作られようとしている八ッ場ダムは百害あって一利なしといえるでしょう。

 以前、長野県知事時代に、「脱ダム宣言」をした田中康夫さんの講演を聴きにいったことがありました。その関係で八ッ場ダム建設に批判的?…てゆうか絶対反対の「八ッ場ダムをストップさせる東京の会」から会費も払わないのに、ニュースレターが送られてきていたのです。今回その中に「新緑の八ッ場ダム予定地見学会」のチラシがありました。5月は新緑の美しい季節です。天気さえよければ最高の一日になる予感がありましたので参加することにしました。

 まず八ッ場ダムが建設されようとしている「川原湯温泉」までどのように行くか調べました。貧乏性の私には「特急」に乗ることなど考えられません。「乗り換え案内」で検索すると、東武東上線で小川町まで行き、八高線に乗り換えて高崎まで、高崎から吾妻線で「川原湯」まで行くといちばん安価であることがわかりました。帰りは高崎までバスで送ってくれるとのことなので、行きのことだけを考えて、西国分寺8時17分発の武蔵野線に乗り込みました。途中、いまはやりの「山ガール」のファッションチェックなどをしつつ東上し、生まれて初めて八高線に乗って高崎に着きました。高崎からは、やはり未体験ゾーンの吾妻線です。アジア・太平洋戦争末期の昭和20年1月、鉄鉱石を運ぶために作られたこの線は、戦後鉄鉱石が輸入されるようになって、観光鉄道となり川原湯温泉に隆盛をもたらしたそうです。車中で持参の昼食を取り、定刻に到着しました。

 12時24分に特急草津で来た参加者がそろったところで、有名な「湖面1号橋」のよく観察できる国道145号線路肩の広場から見学が始まりました。要するにダムができるとこの橋の下まで水がくるということです。この橋の建設主体は群馬県ですが、費用の96%は国の負担というおかしなことになっています。

 バスに乗って移動し、瀧見橋(たきみばし)から国の名勝・吾妻渓谷を眺めました。五月晴れの強烈な太陽光線の中、新緑が眩しいです。このすばらしい景色を水没させようなんてすごいことを考えるなと思う。観光立国日本はどこへ行ったのか?「美しい国はここにあるぞ!」と叫びたくなりました。

 川原湯温泉に向かいます。ここは吾妻線の開通に伴い、温泉・歓楽街として発達し、最盛期には18軒の旅館があったところです。現在では5軒に減り、世帯数も1979年の201世帯から、約50世帯に減少しています。往年の繁栄は偲ぶべくもなく、ゴールドラッシュ後のような寂しさが漂っています。

 徒歩で水没後に新しく開業する予定の、川原湯温泉駅(橋上駅)へ。狭隘な温泉街から工事中の真っ平らな造成地が突然現れ無味乾燥な印象です。鹿の足跡を発見しました。そばの森にはムササビの巣穴もあります。ネイチャーガイドの解説によると、ムササビは飛距離を伸ばすため体を極限まで軽量化していて、齧る力が弱く巣穴を自分で作ることができないそうです。付替え鉄道により、ムササビの生息地が分断され繁殖に影響がでることが心配されます。

法面工事が永久に続くのか?

 温泉街が移転する打越代替地をバスで通過して、対岸川原畑地区の法面(のりめん)工事の状態を見学しました。コンクリートで固め、アンカーボルトで固定した法面がどこまでもつのか? 半永久的に補修し続けることが必要だろうと思います。

東宮遺跡より吾妻線をみる。その向こうに湖面1号橋

 最後に日本のポンペイといわれている1783年(天明三年)浅間山噴火により埋もれた、東宮遺跡を見学しました。

 五月晴れの中、建設予定地周辺を見学しての感想は①八ッ場の美しい景観を破壊するのは「観光立国日本」の名折れである。②土木工事により自然を制御することの不自然さであり、時代遅れのダム建設に貴重な公金を投入するべきではない。③政権交代により建設中止の方向に動き出したのに、その後二転三転してしまうことへのむなしさ。④半永久的に続くであろう維持管理とその費用への懸念でした。

 6月5日は黒部ダム完成50周年でしたが、真の意味で「八ッ場の太陽」が昇ることはないでしょう。

金井 真人